高齢者問題

高齢者問題でお悩みではありませんか

  • 高齢の父が認知症と診断され、今後財産管理をどのように行っていったらよいのか分からない
  • 重度の痴呆の症状が出ている母の介護費用を賄うため、母の所有する不動産を処分したい

 たとえば、ご家族のうちのどなたかが高齢で認知症と診断されたとして、その方の財産管理はどのように行っていけばよいのでしょうか。
 認知症の程度にもよりますが、その方自身による法律行為は、「意思能力なし」として法律上無効とされてしまうおそれがあります。
 しかし、ご家族の方が代わりに行うといっても、あくまで他人の財産ですから、本来は自由に処分することができるというものでもありません(そもそも正当な権限のない処分行為として無効とされたり、後で法律上の責任追及をされたりする可能性があります。)。
 法律は、そのような場合に備え、成年後見制度を設けています。

成年後見制度の概要

1 制度趣旨

(1) 成年後見、補佐、補助制度

 民法は、人は事故の権利義務関係を自由な意思決定により自ら規律することができることを大前提としつつ、判断能力が十分でない者に対する配慮から、行為能力制度を設けました。すなわち、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人を定型的に制限行為能力者とすることで、これらの者が単独で法律時行為をした場合にこれらを取り消しうるものとし、判断能力の不十分なものを保護しています。このうち、未成年者を除いた成年を対象とする制度が、成年後見制度です。
 成年被後見人には成年後見人が、被保佐人には保佐人が、被補助人には補助人がそれぞれ選任され、これらの者が保護者となって被後見人等の財産を守ることになります。

(2) 任意後見制度

 任意後見制度においては、本人と任意後見受任者との間であらかじめ締結された任意後見契約の内容に従って、任意後見契約発効後に任意後見人が本人の財産管理を行うことになります。

2 後見人等の選任手続

(1) 後見等開始の申立て

 後見開始、保佐開始、補助開始の審判が申し立てられ、審理の結果、開始の審判をするときは、家庭裁判所は職権で後見人、保佐人、補助人を選任する審判をします(民法838条2号、876条の2第1項、876条の7第1項)。

ア 管轄

 本人(被後見人、被保佐人、被補助人となるべき者)の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事法117条1項、128条1項、136条1項)。

イ 申立人、申立書及び必要添付書類等

(ア) 申立人

a 後見開始の審判の申立てをすることができる者
 本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官です(民法7条)。

b 保佐開始の審判の申立てをすることができる者
 本人、配偶者、四親等以内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人、検察官です(民法11条)。

c 補助開始の審判の申立てをすることができる者
 本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、検察官です(民法15条1項)。
 そのほか、老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2では、一定の場合に市町村長が後見開始、保佐開始、補助開始の審判の申立てができる旨定めています。
 また、任意後見契約が登記されている場合の任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見契約法10条2項)も審判の申立てができます。

(イ) 申立書

 申立書は、家庭裁判所に備え付けのものを使用することができます。

(ウ) 必要添付書類

 申立書以外に必要となる添付書類は各家庭裁判所において定められていますが、概ね、次のようなものが必要とされています。

① 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
② 本人の住民票又は戸籍付票
③ 後見人候補者の住民票又は戸籍付票
④ 本人の診断書(家庭裁判所が定める書式のもの)
⑤ 本人の「登記されていないことの証明書」
⑥ 本人の財産に関する資料等
ⅰ 不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)
ⅱ 預貯金及び有価証券の残高がわかる書類(通帳写し、残高証明書)

このほか、各家庭裁判所が定める書式(財産目録、収支予定表、事情説明書、親族関係図表等)に記載することもあります。

(エ) 費用等

a 申立手数料
ⅰ 収入印紙 800円文(民訴費3条1項、別表第1の15)
ⅱ 郵便切手 各家庭裁判所で定める額
b 後見登記手数料
  収入印紙 2600円分
c 必要に応じて家庭裁判所で定める鑑定費用

 これらの費用は、原則として申立人が全額負担することとなりますが(家事法28条1項)、家庭裁判所は事情により、費用を負担する者以外の者に費用の全部又は一部を負担させることができます(家事法28条2項)。
 実務においては、後見等開始審判の申立てに際して、申立人が、家庭裁判所に対し、申立てにかかる費用を本人の財産で負担することを求める上申書を提出し、これにより家庭裁判所が費用の一部を本人の負担とする旨の審判をすることがあります。
 この場合、申立人は、審判の確定した後に、選任された後見人等に対し、本人の財産の中から手続費用の償還を求めることができます。

(オ) 後見人の資格

 後見人に選任されるために必要な特別の資格というものはありません。
 民法はわずかに欠格事由を定めるのみです(民法847条)。したがって、本人の親族のみならず弁護士や司法書士等の法律専門職や、社会福祉士等の福祉関係の専門職が後見人に選任されることもあります。また、自然人に限らず、法人も後見人になりえます(民法843条かっこ書)

ウ 審理

(ア) 精神の状況に関する調査

 本人の能力の程度について、診断書や鑑定(家事法119条)をももとに調査されます。

(イ) 後見人としての適格性の審査

 申立人において後見候補者を掲げている場合には、その者の後見人としての適格性も審査されます。

エ 審判

(ア) 後見開始・後見人選任の審判

 審理の結果、後見を開始するのが相当と判断されれば、家庭裁判所は後見開始の審判及び後見人選任の審判を行います。
 後見人は通常1名が選任されますが、必要に応じて数人の後見人が選任されることもあります。

(イ) 後見人への告知等

 審判がなされると、申立人及び利害関係人に対し告知される(家事法74条1項)ほか、後見人に選任される者、任意後見人及び任意後見監督人に告知され(家事法122条2項1号)、本人に対しても通知されます(家事法122条1項)。

(ウ) 即時抗告

 後見開始の審判に対しては、即時抗告ができます。即時抗告期間は、審判の告知を受ける者が審判の告知を受けた日から2週間です(家事法123条、86条)。

後見人選任審判(誰を後見人にするか)に対しては、即時抗告はできません。

オ 後見登記

(ア) 登記嘱託

 後見開始の審判が確定すると、裁判所書記官は、遅滞なく後見開始・後見人選任の登記嘱託(家事法116条、家事規則77条1項1号・2号)をします。

(イ) 資格証明書

 登記嘱託後、東京法務局後見登録課での登録の事務に要する数日を経ると、後見人は、登記事項証明書の交付申請ができるようになります。以後、登記事項証明書をもって、第三者に対して後見人であることを示す資格証明書になります。

カ 被後見人の権利制限

 後見開始の審判がなされると、被後見人は、国家公務員・地方公務員等の就業資格(国家公務員法38条1号、地方公務員法16条1号等)、医師・弁護士等の専門資格(医師法3条、弁護士法7条4号)を喪失し、また株式会社の取締役になれない(会社法331条1項2号)等の責任資格の制限を受けます。また、印鑑登録を受けることもできなくなります。

(2) 後見人選任の申立て

 すでに後見が開始されている者に対して、後見人が欠けた場合(解任、辞任、死亡等を原因として後見人が欠けたとき)に行われます(民法843条2項、3項)。

3 後見人の職務と権限

(1) 総説

 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(身体上の障害を除くすべての精神的障害(知的障害、精神障害、認知症、外傷性脳機能障害等)により、法律行為の結果が自己にとって有利か不利か判断することができない程度の判断能力にある者をいいます。)について、一定の申立権者からの申立てにより後見開始の審判の申立てがなされると、家庭裁判所は審理を経て後見開始の審判をし(民法7条)、後見が開始します(民法838条2号)と同時に後見人選任の審判を行います(民法8条)。後見人には広範な代理権及び取消権が付与されます。

(2) 権限

ア 包括的代理権

 後見人に付与される代理権は、被後見人の財産行為全般について広く及びます。これは、被後見人が事理弁識能力を欠く常況にある以上、財産行為全般について後見人の援助が必要と考えられることによります。
 ただし、次の場合には代理権が一定の制限を受けます。

(ア) 居住用不動産を処分する場合(民法859条の3)

 後見人が被後見人の居住の用に供する不動産を処分(建物およびその敷地の馬脚、居住アパートの賃貸借契約の解除等)する場合には、今日の住環境の変更が被後見人の精神面に与える影響の大きさを考慮して、あらかじめ家庭裁判所の許可を得なければなりません。

(イ) 被後見人の行為を目的とする債務を負担する場合(民法859条2項、824条但し書)

(ウ) 後見監督人の同意を要する場合(民法864条)

 後見監督人が選任されている場合に、後見人が被後見人に代わって営業もしくは民法13条1項各号に掲げる行為をするときには、後見監督人の同意を得なければなりません。

(エ) 後見人と被後見人との利益が相反する場合

 被後見人との間の利益相反行為については後見人に代理権がなく、特別代理人を選任し、これに代理行為をさせなければなりません(民法860条、826条)。

(オ) 身分行為の代理

 婚姻、離婚、認知、養子縁組、遺言等の身分行為は、被後見人の自由な意思に基づくことが求められ、代理に親しまない一身専属性の強い行為であるから、後見人が代理してこれらの行為を行うことはできません。

イ 取消権

(ア) 意義

 後見には代理権のほかに、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いて被後見人が行った法律行為について取消権が付与されます(民法9条、120条1項)。

(イ) 理由

 被後見人が不十分な判断能力に基づいて、自己に不利益な法律行為をした場合に、これを取り消すことで被後見人を財産的被害から守るためです。

(ウ) 「日常生活に関する行為」の内容

 民法761条の日常の家事に関する法律行為に関する判例の考えと同様に、個々人の資産、収入、生活状況等、具体的な事情を考慮して判断されるものと解されいています。

(エ) 後見人の事前同意の可否

 被後見人は事理弁識能力を欠く者であることから、後見人が事前に同意を与えていてもその同意に従って適切な法律行為が行えるとは限らないため、後見人の事前の同意の有無にかかわらず取消権を行使することができると解されています。

(オ) 後見人の追認

 被後見人が行った行為が被後見人にとって不利益なものではない場合に、後見人はそれを追認し、有効な行為とすることができます(民法122条)。

(3) 身上監護と財産管理

 後見人は、被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、被後見人の意思を尊重し、身上に配慮しなければならない(民法858条)のであり、法は後見人の職務として被後見人の身上監護と財産管理があることを前提としてます。
 そこで、後見人は、前期の代理権、取消権を行使して、被後見人の身上監護及び財産管理をその職務として行うことになります。

ア 身上監護

 被後見人の生活の維持や医療、介護等、身上の保護に関する法律行為を行うことをいいます。
 具体的には、介護サービス契約、施設入所契約、医療、教育に関する契約の剪定とその締結、解除のみならず、これらの契約に基づく費用の支払いや、サービスの履行状況の確認等、法律行為を当然伴うと考えられる事実行為等広範囲にわたります。
 ただし、実際に被後見人を介護することなど、事実行為を行うことは含まれません。

イ 財産管理

 被後見人の財産全体を把握し、前述の包括的代理権を行使することによってこれらの財産を保存したり、一定の範囲で被後見人のために利用したりすることをいいます。

4 後見制度支援信託

(1) 後見制度支援信託とは

 被後見人の財産のうち、日常的な支払いをするのに必要十分な金銭を預貯金等として親族後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託し、その払い戻しには家庭裁判所の指示書を必要とするという仕組みです。

 被後見人の財産の適切な管理・利用を図り、本人に生じる損害を事前に防止するための対策の一つとして導入されました。

(2) 後見制度支援信託の仕組み

ア 利用できる後見類型

 後見制度支援信託は、成年後見と未成年後見において利用できますが、他方で、保佐、補助及び任意後見においては利用できません。

イ 信託の対象となる財産の範囲

(ア) 金銭は、信託の対象となる財産となります(預貯金は解約して金銭にします。)

(イ) 株式や投資信託などの金融商品については、財産の現状を大きく変更することになるため、売却して金銭化することは、個別の事案ごとに検討が必要となります。

(ウ) 不動産や動産については、後見制度支援信託の利用のために売却することは予定されていません。

(3) 専門職の関与

ア 親族後見人を選任する時期

 後見制度支援信託を利用する場合、専門職後見人が選任され、専門職後見人が信託条件を整えたうえ、信託契約を締結し、親族後見人に後見事務を引き継ぎます。
 家庭裁判所が後見制度支援信託の利用が相当と考えた事件において、専門職後見人を選任する場合、親族後見人の選任を同時に行うかどうかに関して、大きく分けて次の二つの方式があります。事案や専門職後見人の意向などを考慮して、家庭裁判所がその方式を選択します。

(ア) 複数選任方式

 専門職と親族を同時に後見人に選任し、信託契約締結後、専門職後見人が後見人を辞任し、すでに選任されている親族後見人が貢献事務を単独で引き継ぐという形で専門職が関与する方式です。

(イ) リレー方式

 専門職を先に選任し、信託契約締結後に、専門職の辞任と親族後見人の選任を同時に行い、後見事務を親族後見人に引き継ぐという形で専門職が関与する方式です。

イ 信託条件の検討

 専門職後見人は、本人の心身の状況や財産状況を踏まえて、日常的な支払いをするのに必要十分な預貯金等をいくらにするか、通常使用しない金銭をいくらにするか等の信託条件を整えて、家庭裁判所に報告書を提出します。

ウ 信託契約締結

 専門職後見人の報告を踏まえて、家庭裁判所は信託契約締結の指示書を発行します。
 専門職後見人は、この信託契約締結の指示書の謄本を信託銀行等に提出して、信託契約の締結を行います。

エ 信託契約締結後の財産管理

 信託契約が締結されると、通常使用しない金銭は信託銀行等に信託され、親族後見人は日常的な支払いをするための預貯金を管理します。
 また、親族後見人は、信託した財産の中から、信託契約締結時に定めた定期交付金額を受け取り、日常的な支払いをするための預貯金において管理を行います。
 当初想定していなかった事情により、信託銀行等に信託していた財産からの支出が必要になった場合や、逆に新たに信託銀行等に追加で財産を信託しなければならなくなった場合には、親族後見人は家庭裁判所に指示書の発行を求め、その指示書に基づき財産管理を行います。

(ア) 臨時出費が必要となる場合

 信託契約締結後は、親族後見人が、信託財産を払い戻したり、信託契約を解約したりするには、家庭裁判所が発行する指示書が必要となります。
 臨時出費が必要となる場合とは、例えば、被後見人の介護のために自宅を修繕するに当たり多額の費用が必要となったが、親族後見人が管理している預貯金だけでは足りない場合などです。
 このような場合、親族後見人は、臨時出費が必要である旨の報告書と資料を家庭裁判所に提出し、家庭裁判所から指示書の発行を受けたうえ、指示書の謄本を信託銀行等に提出して信託財産を払い戻すことができます。

(イ) 追加信託をする場合

 信託契約締結後は、親族後見人は日常的な支払いをするための預貯金を管理するのみになるので、当初の想定に反して不動産を売却するなどして親族後見人が管理する預貯金が多額になった場合、追加信託をすることができます。
 このような場合、親族後見人は、追加信託をする旨の報告書と資料を家庭裁判所に提出し、家庭裁判所から指示書の発行を受けた上、指示書の謄本を信託銀行等に提出して追加信託を行います。

(ウ) 定期交付金額を変更する場合

 信託契約締結後は、親族後見人は信託した財産の中から、信託契約締結時に定めた定期交付金額を受け取り、日常的な支払いをするための預貯金において管理を行います。
 定期交付金額は信託契約締結時に決められますが、当初の想定に反して日常的な支払いが増え、決められた定期交付金額では被後見人の日常の出費が不足するなどの事情により、定期交付金額を変更する場合には、家庭裁判所が発行する指示書が必要となります。
 このような場合、親族後見人は、定期交付金額の変更が必要となる理由を記載した報告書と資料を家庭裁判所に提出し、家庭裁判所から指示書の発行を受けた上、指示書の謄本を信託銀行等に提出して定期交付金額の変更を行うことができます。

オ 費用

 通常、信託契約の締結に関与した専門職後見人に対する報酬と、信託銀行等に対する報酬が必要となります。

カ 信託期間

 被後見人が死亡するまでです。

当事務所が提供する法的サービスの例

(1)後見開始の申立て

 前述した申立て権限のある方であれば、ご自身で後見開始の申立てをすることができます。
 ただ、添付資料の収集や裁判所とのやりとりなどがご負担であれば、弁護士が代理して行うこともできます。

(2)成年後見人への就任

 後見開始申立ての際には、成年後見人候補者を上申することができます。
 候補者を上申したからといって、必ずその者が後見人に選任されるとは限りませんが、お客様が当事務所の弁護士が後見人として選任されることをご希望の場合は、家庭裁判所から選任されることを条件として、成年後見人に就任することもできます。

弁護士費用について

11 任意後見及び財産管理・身上監護

(1)契約の締結に先立って、依頼者の事理弁識能力の有無、程度及び財産状況その他(依頼者の財産管理又は身上監護にあたって)把握すべき事情等を調査する場合の手数料

 1を準用する

(2)契約締結後、委任事務処理を開始した場合の弁護士報酬

(ア)日常生活を営むのに必要な基本的事務の処理を行う場合 月額5000円から5万円の範囲内
(イ)上記に加えて、収益不動産の管理その他の継続的な事務の処理を行う場合 月額3万円から5万円の範囲内
ただし、不動産の処理等日常的若しくは継続的委任事務処理に該当しない事務処理を要した場合又は委任事務処理のために裁判手続等を要した場合は、月額で定める弁護士報酬とは別にこの規定により算定された報酬を受けることができる。

(3)契約締結後、その効力が生じるまでの間、依頼者の事理弁識能力を確認するなどのために訪問して面談する場合の手数料

 1回あたり5000円から3万円の範囲内

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